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最高裁判所第一小法廷 昭和56年(オ)196号 判決

上告人

林光昭

右訴訟代理人

橋本長平

被上告人

株式会社佳化

右代表者

藤井陽

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人橋本長平の上告理由について

判旨統一手形用紙を使用した本件約束手形の受取人欄には、受取人の氏名に続けて「限り」と明白に読みとれる記載があるとした原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らし首肯するに足り、右事実関係のもとにおいては、右記載は手形法一一条二項にいう指図禁止と同一の意義を有する文言の記載に当たると解するのが相当である。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(本山亨 団藤重光 藤﨑萬里 中村治朗 谷口正孝)

上告代理人橋本長平の上告理由

原判決には、判決に影響を及ぼすこと明らかなる法令の違背がある。以下、その理由を明らかにする。

一、手形法一一条所定の裏書禁止手形といいうるためには、手形面上、振出人が裏書を禁止して振出したことが明瞭でなければならない、とするのが通説でもあり、判例でもある(大隅・河本注釈手形法、小切手法一四五)。従つて、裏書禁止手形は裏書禁止文言が明瞭に記載され、且つ、その文言の意味が一義的に明確なものであると言い換えることができる。

とすれば、「指図禁止の文言は、第三者において明らかに認識しうる程度に明瞭に記載されることを要件とするというべきである」(本件第一審判決書)。

しかるに、原判決は、右要件を緩和し、「手形取引において、通常要求される理解力があれば、右手形全体の記載から……(略)……指図禁止と同一の意義を有する文言の記載があると理解しうる」(原判決書五丁裏)と説示して、本件手形を裏書禁止手形であると認定しているが、これは明らかに前記通説判例に違反しており、判決に影響を及ぼすこと明らかである。

二、本件手形上に記載のある「限り」という文言が、果たして、日本語としての文言であると言えるのか、否か、あるいは又、あたるとしても、「限り」と明瞭に読みうるものか、否か、そして又、「限り」というのが、指図禁止文言にあたるのか否かという判断は、実は、事実認定の問題であると言わねばならない面があるのは否定しえず、従つてそれは控訴審の専権事項であり、この判断に対して、上告審に不眼を申立てることはできないとする議論は、一応首肯できない訳ではないが、本件手形面上に記載のある「限り」なる文言をもつて、特になんらの理由をも示さず、明瞭であると認定した原判決の態度は、前記指図禁止文言の明瞭性の要件を説示した通説判例に実質的に違背するものであり、判決に影響を及ぼすべきこと明らかである。

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